エレベーターが開くと、そこには静かで上質な空間が広がっていた。

ここは一島重工本社ビル、24階のエグゼクティブ・フロア。社長室、副社長室や重役会議のための会議室、応接室が集約されたフロアだ。

磨き上げられた大理石の床に、男の靴音が響く。
若い受付係が男の到着に気づき、驚きの余り立ち上がった。

「二宮さん!」
その表情は百歩譲っても、彼の登場を歓迎している様子ではない。

「おはようございます」

その男-二宮はそれにひるむこともなく、慣れた様子でカウンターの内側、受付係の隣に回ると、
「社長の新聞、いただきますよ」
そこにごちゃごちゃと広げられていた新聞と広告類の中から迷わずに2,3の新聞を取り出し、奥へ続く廊下へ向かった。

受付係が後を追う。
「先輩、今日からそれは私の仕事です!」

「星野さん」
二宮が立ち止まり、受付係を見る。

「エントランスの植物、傷み始めてますよ。グリーンサービスに電話していただけましたか?」

「あ、忘れてた」

「コーヒー豆と万年筆のカートリッジの注文は?」

「・・・今日やります」
うなだれた星野を残し、二宮は奥に姿を消した。

脇のドアが開き、男が顔を出した。
ヘルシアを愛飲していそうな体格の、さえない風貌の中年だ。
「なんだ、どうした?」

「課長・・・二宮さんが、来ちゃいました」

「あちゃー。こりゃ、またひと嵐来るぞ」