供述調書5:元社長秘書、二宮惠一(インテリ)

「よろしくお願いいたします」

二宮が部屋に入ってきたとき、その尋常ではない服の状況に、二刑事は内心驚いた。
スーツの左腕に、一目で血糊と分かる赤黒い染みができていたのだ。

「・・・その染みは?」

「あぁ、これは社長のです。先ほど社長を抱き起こした時に、ついてしまいました」
二宮は、顔色一つ変えずに淡々と答える。
その冷徹なまでの無表情に、原田刑事は背中に悪寒が走るのを感じた。
(インテリというより、こいつはロボットだな)

以下は、二宮惠一の語った供述調書である。

「私は会議室で、佐伯課長と一緒に資料準備をしていました。銃声が聞こえたので社長室へ向かうと、社長室の手前にある前室で社長が倒れていました」

「ということは、あなたが第一発見者ということですね?」

「そういうことになりますね」

「不審人物を見ませんでしたか?」

「いいえ」

「このような事件が起きる心あたりはありますか?」

「ありません」

「他の方からは、社長とあなたがここ1週間ほどずっと口論をしていたという証言がありますが?」

「はい、確かに人事異動の件を巡ってそのようなことはありました。でもそれとこれとは全くの別問題です。その人事異動命令を取り消すことのできる社長を殺して、私に何の得があるのでしょう」

「さぁ・・・」
逆に聞かれた西刑事は、返答に窮した。

「事件発生の直前にも、社長室で口論していませんでしたか?」

「はい、少しだけ。その後、佐伯課長に呼ばれ会議室に行ったんです」