供述調書2:秘書課長、佐伯知広(メタボハゲ)

佐伯は、暑くもないのに止まらない汗を、ハンカチでしきりに拭っている。
平常心を装おうとしているが、その汗が彼の心の動揺ぶりをよく表していた。

「クーラー入れても、いいですか」

「・・・どうぞ」

「あぁ参ったな。来年上の娘が大学で、下の娘が高校なのに」

「・・・何を心配されてるんですか?」

「株価ですよ。社長の殺害を受けて、一島重工を始め関連会社の株価が一気に下落してます」

「はぁ」

「うちの経営が不安定になるということは、うちと関係のある会社の多くが不安定になるってことなんですよ。で、関連会社が不安定になるとうちの経営もますます不振に陥る。悪循環です」

「一島重工って、すごい会社なんですね。道理で、立派なビルだと思ったら」
西刑事は純粋に感心している。

「お前、知らなかったのか?一島重工は、日本三大重工のひとつだぞ」

以下は佐伯知広の語った供述である。

「私は会議室で、重役会議にかける資料の準備を、掃除婦の小岩としていました。えぇ、普通は掃除婦に頼む仕事じゃないんですけどね。星野は社長を迎えに行ってましたし、二宮には『お前は秘書課の人間じゃない』って言ったばかりでしたから、頼みづらくて」

「二宮は仕事はできるんですが、どうも取っ付きにくいところがありまして。社長は器の大きい人でしたから、そんな二宮ともうまくやっていたんですが。一週間前だったでしょうか、社長が突然、彼にロンドン転勤を命じたんです。ポストが空いてしまったので、急いだんでしょう。二宮はそれに納得しなくて、事件の直前も大声で喧嘩している音が、廊下まで聞こえてましたよ。そう、声がやんだ直後です、銃声が聞こえたのは」