「あの、」 「うん?」 「名前って、」 「名前?」 「名前・・・なんて言うんですか?」 そう聞いたあたしに男は少し驚いた目で見る。 「いや、その、名前知らないと不便だからっ」 慌てて言葉を付け足したあたしに、 男は「あぁ」と納得したように呟く。 不便だというのは嘘じゃない。 でも、男の名前を知りたい好奇心でもある。 「・・・名前は、特にない」 だから 男の言葉を聞いた時、酷く落胆した。