「わ…私は…もう、誰も殺したくないんだ!!」
山南は、震える声を必死で絞り出して、長い間自分の中で渦巻いていた本音を一気にぶちまけた。
過呼吸のように忙しなく肩を上下させる山南を楓はじっと見つめている。
「…以前、君が“自分の道を貫いてみればいい”と言ってくれた時、あんなに晴れ晴れとした気持ちになったのは久しぶりだった。でも、現実はそうはいかない。ここにいる限り、人を殺めるのが絶対。
出来ないのなら…自ら死を…」
「此処には戦力なんか腐るほどおる」
嗚咽を漏らしながら自分の中のものを吐き出し続ける山南に、今まで黙っていた楓が静かに口を挟んだ。
「戦力だけある集団があってもそんなのすぐに壊れてまう。理由は簡単。精神的な支柱が無いからや」
楓は左手で首筋を掻きながら顔を顰めている。
「馬鹿みたいに刀振り回して馬鹿みたいに斬りまくって。最初は何とも思わんやもしれん。だがな、いつか必ず思うときが来るんや」
――人を斬って何を得るのか?
「…」
「誰もが一度はぶち当たる葛藤や。そんな脆くなった自分を支えてくれるのは自分自身やない」
「支える…もの?」
山南は手の平に埋めていた顔を上げ、楓に向き直る。
ぼやける視界で見た楓の表情は優しく微笑んでいるように見えた。

