幕末異聞―弐―


屯所の端にある浴室の辺りをドスドスと少々荒い音を立てながら歩く巨漢。

自分の体系から、細々とした場所には隠れられないと思った原田は、丁度いい大きさの場所を求めて歩いていた。

「いや〜、新八は勘が鋭いからな〜。まずあの鈍くさそうな二人は捕まるな!やっぱり俺と楓で勝負か!」

原田の頭の中では、馬越と浅野は将棋でいう“歩兵”つまり、捨て駒同然なのだ。

「俺の素晴らしい活躍を目かっ開いてよく見とけよ歩兵共―!!」

「歩兵はお前だよ」




「……え?」


王将気分でいた原田の背後から冷め切った声がした。原田は、ギシギシと音がしそうなほど小刻みに首を後ろに捻る。

「左之助みっけ」

振り向いた原田の視界には、満面の笑みで負けを告げる永倉の姿があった。


「えぇーー?!!!」


屋敷中に響き渡るくらい声を張り上げて驚きと落胆の表情を浮かべる原田。

「なに?もしかして自分王将とか思ってたりした?」


「…」


「ちなみに左之が第一脱落者だからね?」

「うるせえーー!!見りゃわかるよ!傷口に塩を塗るような真似はやめてくれ!!」

永倉の追い詰めに耐え切れなくなった原田が悲痛な叫び声を上げる。永倉はそれを聞いても尚、残酷な笑顔を絶やさない。

「まあいいじゃん。二人で探した方が楽しいしさ」

永倉は、原田の大きな背中をバシバシ叩きながら二人で仲良く元来た道を戻って行った。