幕末異聞―弐―


「二十三、二十四……大人の俺が四十なんてまともに数えるわけないでしょ」

足音が遠くなった時を見計らって、永倉は柱から離れた。原田の部屋に誰もいない事を確かめると、今度は襖から半身身を乗り出して廊下に人がいないか確認する。

「まだ三十秒くらいしか数えてないし、そう遠くには行けないだろう」

そう言いながら、永倉は極普通に廊下を歩いて三人を探し始めた。





「何処に隠れたら見つからない?」

「う〜ん。厠とか?」

「やだよ臭いし」

永倉が既に動き始めている事を全く知らない馬越と浅野は、四十秒の猶予を使って何処に隠れるか熟考していた。

「道場は?」

「いや、そこは意外とすぐに探しに来ると思うな」

「蔵の中?」

「いや、鍵かけられたら終わりだし」

「軒下?」

「汚い」

「池の中?」


「……死ぬだろーがッ!!」


「じゃあ浅野も何か考えろよ!」

馬越の提案をことごとく否定する浅野。普段楓にいじめられているせいか、馬越に対しての態度は大きい。


「考えろったって…。相手は永倉組長だしなぁ。子どもの頃みたいに普通の隠れ場所じゃ通用しないよな〜」

炊事場近くの廊下を歩きながらどこかいい場所はないかと目を光らせる浅野。


「あ!!あそこはどうだ?!」


浅野の後ろを歩いていた馬越から明るい声が聞こえた。

「おお!!いいね!」

これには浅野も満足したらしく、笑顔で馬越の指した場所まで走る。


やがて、二人の視界は黒一色となった。