幕末異聞―弐―

「馬越君は夜の見回りか?」


危ない方向に向かいそうな三人を他所に、楓は馬越との会話を続ける。

「え?そうですけど」

「じゃあかくれんぼできるな!」

「はい??」

楓の言葉は馬越の頭に留まることなく、両耳を通り抜けていった。
用があると言われて来てみれば用件は“かくれんぼ”。頭の中を整理しようとする馬越だが、考えれば考えるほど混乱する。

「まぁ、俺らに拒否権は無いみたいだよ」

隣に立っていた浅野が哀れむように長身の馬越の肩を軽く叩いた。


「…はあ」


馬越は開けたままの口で返事とも溜息ともとれる情けない声を出した。

「よ〜し!!これだけ集まれば上等や!じゃあ、鬼は新八な」

「はぁ?!!クジとかジャンケンじゃないの?!」

「発案者が規則。これ遊びの鉄則」


「…本っ当に無茶苦茶だ」


楓の仕切りですんなり鬼を決めると、いよいよかくれんぼの開始である。


「ええか?範囲は屯所内のみ。道場もありや。刻限は半刻(一時間)。それまでに全員見つけられなかったら、新八が全員に甘味を奢る」

「だッ!!勝手に鬼にされた上になんでそうなんだよ?!!」

「ええやないか!うちらみたいな平よりもええ給料もらっとんのやろ?」

楓がいやらしい笑顔で永倉の腕を小突く。


「…ゼッテー見つけてやる!」

「やってみい!!」

楓の挑発に見事に乗ってしまった永倉。最後に楓を睨みつけて柱に額を付ける。


「うし!じゃあいくぞ!!四十秒な!
いーち、にー、さーん…」


永倉は、手の平で目を覆い、ゆっくりと数え始めた。

四人は顔を見合わせて、それぞれの健闘を祈ると、四方八方に散っていった。