幕末異聞―弐―



「連れてきました〜!!」

「ぬ?」

三人の話を遮って聞こえてきた浅野の声。
どうやら馬越は屯所内にいたようだ。世間一般でいう美男子とやらを一目見ようと、楓は素早く振り返る。


「馬越、ここだよ」


「あ…あの、大事な用があるって浅野から聞いたんですが…」


三人の前に現れたのは、長身の男であった。


「あれ?!貴女、赤城さんですか?」

高い位置から話しかけられた楓は、斜め上を向いて馬越と対面した。


精悍な切れ長の眼の上には凛々しい眉。日本人には珍しい、縦長の引き締まった輪郭に高い鼻。一瞬、本当に日本人かと疑うほど目立つ顔立ち。


「おお!あんたが馬越君か!派手な顔しとんなぁ!」

「あっはは!よく言われます」

高すぎず、低すぎない心地よい声で馬越は楓と握手を交わす。

「どうだ楓!いい男だろう?!」

原田が馬越の隣に並び、肩を組んでにやにやと笑う。楓からは高い壁が出来たように見えた。

「ああ。これじゃ島原でも有名になるわ!」


「そんなことは…」


照れくさそうに俯く馬越。その弾みで、頭の頂点辺りで縛っている黒髪がサラサラと数束肩の前に落ちた。


(((うっ…色っぽい)))


馬越を見ていた男三人衆は、彼の仕草一つ一つに釘付けになっていた。