「…おい、何であんなにやる気満々なんだ?」
まだ開いた口が完全に塞がらない原田は、楓の出て行った方角を見たまま永倉に問う。
「さぁ?俺、楓のあんな姿見たことないわ」
同じく、半分放心状態から抜け出せていない永倉が緩々と首を横に振る。
とにかく、楓の指示通り部屋で大人しく待つことに決めた二人。だが、楓が帰ってくるまでに、待つというほどの時間は必要なかった。
廊下からは口論している声と、ドスドスという荒い足音が聞こえてきた。
嫌な予感がする原田と永倉。
じっと声のする方向を見つめる。
「連れて来たで!!」
相変わらずの明るい顔と声で姿を現した楓。
「だから何なんだっていってるんだよぉ!!?」
「あ」
障子戸のせいで姿は見えないが、楓の後ろからは、永倉の聞き覚えのある声がした。
「浅野か?!」
聞き間違えようの無い元部下の特徴ある高い声。永倉は、確信を持って懐かしい名を呼ぶ。
「はっ!!な…永倉組長でございますか?!!」
楓を押し退けてバっと障子の影から姿を見せたのは、元二番隊隊士、現監察方の浅野 薫であった。
浅野は、原田と永倉の顔を交互に何回も見直す。
「薫ちゃんも参加する」
「…はい?」
自分の置かれている状況が全く把握できていない浅野は額に大粒の汗をかいている。
それを見かねた永倉が、説明不足な楓に変わって浅野が呼ばれた経緯を説明した。
「え?かくれんぼですか?!」
長らく使っていない“かくれんぼ”という言葉に懐かしさを感じながら驚く浅野。
「そう」
原田が浅野に哀れみの目を向けながら大きく頷いた。
「で?他はどうするんだ?」
浅野の意見を聞かないまま話を先に進める永倉。既に三人の中で浅野は参加するものとなっていた。
(…え?参加して当然みたいな空気になってる?!)
「…」
結局、浅野の意向は聞かれること無く、かくれんぼに強制参加という形になってしまった。