彼の目に映ったのは、部屋全体にバラバラと散らばる駒、そして無残にひっくり返された将棋盤であった。

「楓…。お前またやったのか?」

「ふん!」

「え??もしかしてこいついつもこうなの?!!」

「そう。最初は怒ってたけど、もうめんどくさいから何も言わない事にした」

永倉の呆れ顔を見ても、全く反省の様子を見せない楓。
そもそも彼女に反省という文字はないのかもしれない。

「それじゃただのガキじゃねーか!!」

「そうだよ。こいつと勝負するときは常識を捨てなきゃいけない」

「何だそりゃー!!?」

「つべこべ言わんと何か違うのしようや。将棋は好かん!」

楓は、二人の話を聞かず、足を伸ばして天井を向き欠伸をする。

「はぁ?!何かってなんだよ?」

今まで激怒していた原田が額を掻きながらぶっきらぼうに尋ねた。


「そうやな〜…。かくれんぼとか?」


「「かくれんぼぉ?!!」」


意外な人物からの意外な提案に原田も永倉も声を裏返して聞き直す。

「そうや!!屯所内かくれんぼしよう!」

楓には珍しい、嫌味の無い明るい表情で二人に詰め寄った。
楓の不気味な態度に原田と永倉は顔を見合わせて唖然とする。

「別にいいけど…。三人でやるのか?」

「今日の非番は二と十だけだぜ?!」

「夜見回りの奴呼べばええやん。
あ!待ってろ!今一人連れて来たる!!」

と、言い終わると同時に楓は持ち前の俊足で原田の部屋から出て行ってしまった。