幕末異聞―弐―


「一度聞きたかったんだがよ、何でそんな死番やってんだ?
いじめられてるんだったら早目に言え」

「そんな悪質ないじめあってたまりますかっ!!」

決して冗談ではない土方の言葉に、藤堂は激しくつっこむ。

「う〜ん。改めて聞かれるとどう答えていいのやら…。根っからの祭り好きだから…ですかね?」

「俺だって祭り好きだが、別に死番なんてやりたいと思わねーぜ?」

カンっと煙管に溜まった灰を横に置いてある火鉢に落としながら目を細める土方。

「何ていうか…敵陣につっこむ時のギリギリの緊張感と高揚感がたまらない…のかな?」

藤堂は、これ以上曲げられない所まで首を捻り、苦笑しながら軽く言う。

その発言を聞いて土方は、新しく刻みタバコを詰めた愛用のキセルを畳に落としてしまった。


「お前…変態だな」


「…」


暫しの沈黙。

いや、正確に言うと藤堂の思考が完全に停止してしまったのだ。


「な…なな、何言ってるんすか?!!俺は全然変態じゃ「平助、変態なんですか〜?」

「違うってい……総司?!」

「や!」

藤堂の背後から音もなく現れたのは一番隊を総括する沖田であった。
いきなり湧いて出た沖田に驚いた藤堂は、思わず大きな声を上げてしまった。


「いい、一体どこから?!!」

「え?そこから」

沖田は、酷く狼狽している藤堂を大きな目で不思議そうに見つめながら、普通に襖を指差した。

「さっきお前もそこから入ってきただろ。ってか入り口っつったらそこかお前の真正面にある障子戸しかねーよ!」

「あははは!頭大丈夫ですか?」


「いや…はい。でも、何で総司が?」

腰に差していた刀を自分の右に置き、沖田は僅かな距離をとって藤堂の隣に正座した。

「私も呼ばれたんですよ!この仏頂面の副長さんに。
何だ〜!土方さん今日の皺は水が溜められそうな程深いですね!!」

不機嫌な土方に全く圧倒されることなく、沖田は自分の膝を叩きながらケラケラと笑っている。
沖田の隣に座る藤堂は、彼の姿を唖然として見ている反面、自分は今まで何に対してこんなに恐れを感じていたのか少し空しさを感じた。