幕末異聞―弐―


「何もしてないし…怒られる必要なんて全然ないじゃん!!はははは!!」

道場を飛び出してから半刻、道着と弾みで着けてきてしまった防具を脱ぎ、身支度を整えた藤堂は自分の今までの行動を振り返り、非のない事を確認しながら屯所内を行ったり来たりしていた。



「どうしたんだい?」

「わぁッ!!!」

何処からともなく聞こえた声に、自分の事で必死だった藤堂は跳ね上がった。

「す…すまん!驚かすつもりは無かったんだが…」


「さ…山南さん!!」


声を掛けてきた者の正体を確認した途端、藤堂は胸を撫で下ろして本当に安心した様な笑顔を見せた。

「さっきからずっと難しい顔して歩いてるから、何か悩み事があるのかと思って…」

中庭にいる山南は、藤堂の焦る姿に微笑していた。

「え?!ああ…、別に大した事では無いんですけど…」


藤堂にとっては十分大事であったが、誰かに話して解決できるような話ではない。それに、余計なことで山南に迷惑はかけたくないと、彼を人一倍尊敬している藤堂ならではの気遣いがその言葉には含まれていた。

「いいじゃないか。大したことじゃなくて」

しかし、軟らかい笑顔で発せられた山南の言葉は、藤堂の気遣いを無用にさせた。

山南は、廊下にいる藤堂を縁側に座りながら手招きする。


「えっ!!いいんですか?!」


山南の促しに藤堂の目は、期待と喜びの入り混ざった輝きを見せた。

「もちろんだよ。お茶でも飲みながらゆっくり話そうじゃないか!」


「は……はいっ!!」


まさかの山南の誘いに頬を染めながら笑顔を浮かべる藤堂。急いで山南の隣に正座する。