――五月二十八日



「珍しいな。君がここにいるなんて」


「俺だって外に出たいと思うことくらいあるさ」

この日は五月にしては暑かった。

私は日々深さを増す中庭の緑を楽しみながらただ何も考えずに歩き回っていた。
この珍客、土方歳三が来るまでは…。

「あっはは。これは失礼した」


「…」


「…」


彼とは長年の付き合いだが、二人きりで同じ場所にいるというのは極めて稀な事だ。当然話は続かない。
名前のわからない鳥が私たちを嘲笑うように頭上高くじゃれ合いながら飛行している。

(何時まで経っても、お互い不器用なのかな)


「ふふ」

「?」

武州にいた頃を思い出していたら不意に笑いがこみ上げてきた。
当然、彼には私が笑っている理由など解るはずがなく、気味悪そうに眉を顰めている。

「いやね、昔を思い出してたら笑いがこみ上げてきて…」


「武州のことか?」

「ええ。あの時から貴方は変わってないなと思って」

「山南さんだって別に変わってねーだろ」

「いいえ」

私は彼の言葉に無意識の内に反応していた。


いっそこのまま打ち明けてしまおうか?



――私には人が斬れなくなった



刀を付き出してしまおうか?




「そうか?」



「…そうです」


その一言すら切り出せない臆病な自分。
吐き気がするくらい嫌いだ。

(赤城君。やはり私は半端者なんですよ)

自分の中ですら自分の筋を通せない。

このまま騙し通せればいいと心のどこかで思っている。

情けない男だ。