「なるほど。理由を聞かせてもらおうかの」
坂本は特に何の反応も示さず、胡坐をかいた膝に肘をのせ、頬杖をつく。
「これはまだ計画の段階なのですが、帝(天皇)をこの京都から連れ出そうと思っているのです」
「なんじゃと?!」
これには流石の坂本も身を乗り出して驚いた。
「既に、長州、諸藩の同士五十名程がこの計画に参加することになっています。
その時に日本製の武器だけでは力不足。そこで、幕府もまだ手に入れていない最新の武器が欲しいのです」
「…帝を連れ出すなんて…出来るがか?!」
「できます。京都中に火をつけて混乱を招く。
それに乗じて帝を長州に連れて行くのだ」
「おんし…正気か?」
坂本の声が震える。
目の前にいる吉田からは狂気しか感じられなくなっていた。
「俺は何時だって正気です」
口元だけで笑う吉田。
坂本はそんな吉田を軽蔑と憎悪の目で睨む。
「…そんな事して、京都に住む人たちはどうなる思っちゅう?!」
「何かを変えるには多少の犠牲はつきものです」
血も涙もないような言葉を平然と言ってのける吉田を前に、坂本の視界は赤く染まった。
「吉田先生!!」
宮部が叫んだ時にはもう手遅れだった。
坂本の手は吉田の胸倉を掴んで殴る体制に入っていたのだ。
「おまんそれでも人の子か?!!
そんに下らん計画に大勢の関係ない人間を巻き込む言うがか?!ふざけるのも大概にせい!!」
坂本の怒号と荒い息が薄暗い家中に響く。
胸倉を掴まれながら不思議そうにその様子を見ている吉田。
「…何故怒る?あんただって新時代を作ろうと動いているのだろ?だったら「おまんと一緒にすなっ!!!」

