「今日からお前は太夫に扮して監察と共に動くんだ!」


土方の投げた物は咄嗟に出した楓の手に納まっていた。
楓は、手の中で鮮やかに褐色する朱色に目を細めた。金色の刺繍。色とりどりの絵柄。普通に暮らしていては中々手に入る物ではない。

そう、楓が渡されたのは太夫が着る衣装一式であった。


「置屋にはもう話をつけてある。
後はお前が祇園の『柏木』でヘマしなきゃいいんだよ!」

何と粗末な説明だろう。

楓は口を蛸のように窄め、立派な着物を見つめる。



「…給金上がるんやろうな?」

「そりゃ危険手当はがっぽり出す」


「当然やろ」


土方に言いたいことは山ほどあったが、全てを飲み込んで楓は立ち上がる。

そして、納得していないと主張するように襖を音が出るようにワザと乱暴に閉めた。