――四月二十六日



「…殺されたいんですか?」


この日の天気は雨。昼を回っても気温は上がらず、肌寒い一日になりそうだ。
人一倍寒さが嫌いな楓の機嫌は悪かった。その上、副長室に呼ばれた事で機嫌は最悪となった。


「いや、本当にお前ェにしかできねェんだよ」

楓に対面して着座する土方が珍しく下手に出ている。

「こんなん総司にでも八十八にでもやらせればええやろ!!」

遂に抑えていた糸が切れた楓はドスの聞いた声で土方に文句を言う。

「総司に頼んだら絶対殺されるだろ!山野君は…泣き出しそうだからちょっと」

「言い方がキモイわ!!あんたなんで無駄に八十八に優しいんや?!!男色か?!男色なんか?!」

「テメェ!!人が下手に出てりゃいい気になりやがって!いいじゃねえか!男を女にするより男のような女をどうにかした方がまだマシだろ!?」

「こんの…それが人に物頼む態度かコラァッ!!」

「うるせェ!テメーこそ上司の胸倉掴んでいいと思ってんのかこの野郎!!」

お互いの着物をつかみ合って今にも殴り合いが始まりそうな体勢。二人をここまで発展させたのは土方の仕事机にちょこんと置かれたある物。


「いいか!よく聞け猪女!!今この隊に女はお前しかいねェんだよ!!!お前がやらなきゃ大事になるかも知れねェ!これは新撰組局長からの赤城楓に対する命令だ。やれ!!」

土方は掴まれて乱れた着物を直しながら楓を睨みつける。

「今更こんなん着ろいうんか?!」

「そうだ!」

楓の抗議に一切耳を貸さず、土方は机の物を楓に思いっきり投げつけた。