池田屋事件、禁門の変において目覚ましい活躍を見せた新撰組は、会津藩・松平公お墨付きの精鋭部隊として認められた。
浪人が局長を務め、従える者たちの身分はばらばら。そんな前代未聞の組織・新撰組に、武士階級の人々は興味の目を向けていた。


「こんくらいの事で大将が浮き足立ってるようじゃ新撰組もまだまだ田舎集団やな」

近藤の供を務め上げ、屯所の玄関で草履を脱いでいる楓が、隣にいる永倉に皮肉を言う。


「ほんと…その通りだ」

「!?」

予定とは全く逆の永倉の反応に楓は首をかしげた。

「何だよ?反論して欲しかったか?」

顔は草履に向いているのに、楓の変化に素早く気付いた永倉は力なく笑った。

「いや、別に」

「へへ。ま、たまにはお前に賛同できる事もあるってこった。お先に」

楓が驚いて手を止めている間に、草履を脱ぎ終えていた永倉が廊下に上がる。 


「…変な奴」


段々小さくなっていく足音を背中で見送りながら、草履の結び目に視線を落とす。

解いてるはずだった草履の結び目が絡まり合い、既に切る以外方法がないくらいに複雑な形をしていた。

だが、楓はこの日に限って何故か結び目を断ち切れなかった。