七月の大規模な長州征伐以来、佐幕攘夷派の新撰組と尊王攘夷派の小競り合いは日常茶飯事となっていた。

禁門の変がきっかけで、長州勢は京都への出入りを禁止されていた。しかし、火災跡が目立つ京の町では警備の目は行き届かず、再び倒幕を企む者たちが集い始めている。
そんな状況が新撰組を悩ませていた。


「こんな毎日負傷者出してちゃ会津から召集かかっても出向けなくなっちまう」

各隊から毎日渡される報告書を睨み、指折り何かを数えだす土方。

「ここ四日だけでうちの負傷者は五人…。まずいな」

「予定よりも少々早いが、平助と津川君を江戸に行かせてはどうだい?」

土方の頭を抱える姿を傍らで見ていた山南が口を開く。倒幕派との緊張状態が続いている今、藤堂と津川という大きな戦力を削ぐのは得策ではないかもしれない。しかし、現在の京都や大阪で隊士を急募したところで、倒幕派の間者が潜り込んでしまっては意味がない。
ここは、少し負担を伴っても江戸まで入隊希望者を探しに行った方がいい。というのが山南の考えだ。

「確かに…俺も同意見だ」

山南の言葉に何度か頷き、土方は早速行動に移そうと立ち上がった。

「早速近藤さんに許可をもらいに行こう」

「今日は無理だと思うよ」

襖に手を掛けた土方に対し、山南が引き止めるように手を挙げる。


「…ああ。なるほどな」

土方は山南の手の意味を即座に理解し、襖から離れた。


「急に俺たちの働きが評価されて、会津藩のお偉方と話す機会が増えたからな。近藤さんも戸惑ってるんだろ」

土方には滅多にない遠回しな言い方である。
仕方なく近藤との面会を諦め、再度机に向かって座り直した。



「そんなに気張る必要はないと思うんだがね…」


土方の言わんとする事が手に取るように解る山南は、宥めるような優しい口調で苦笑していた。