「それで…永倉君たちが近藤さんに抗議したのか?」

山崎は黙って目を瞑り頷く。

「正確に言うと、抗議とはいえないくらいあっさりとしたものでした」


「…近藤さんも、命令を取り下げるきっかけがなくて困っていたところだったんだろう」

「おそらく」


山崎の話によると、永倉たちが息込んで近藤に楓除隊への抗議をしたところ、暫し沈黙した後、苦笑してこう言ったそうだ。


「俺は女子の生き方を一つに決め付けていた。人には一人一人名前があって、その名前と同じ人生を一つ一つ持っているんだよな」



その言葉を山崎伝に聞いた土方は溜め息混じりに小さく笑っていた。

「……重いわ」


誰にも聞こえない声で一言発した楓は、自分は一人ではなかったという事と、自分に対して各々のやり方で行動を起してくれた仲間に何を思えばいいのかわからなかった。



「よかったですね」

腕の応急措置を終えた沖田が楓の隣に並ぶ。真横に並んだ楓からは沖田の顔は見えない。

「ふん。新撰組(ここ)は馬鹿ばっかりや。あんたも含めて」

一番不器用なやり方ではあったが、一番心配してくれた沖田に、楓からの精一杯の礼だった。それに気が付いた沖田は、鼻で笑い楓の前に出る。

「後悔するかもしれませんよ?」

「後悔なんて事が起きた後に初めて感じることや。そんなん怖がってたら何もできん」

「ふっ、確かにそうだ」


最後まで後ろを振り返らなかった沖田は、頭上高く結上げた漆黒の髪をなびかせて壬生寺を後にした。


「おい、俺たちも帰るからな」

細かい話を山崎から聞き終えた土方の声が楓には少し機嫌がいいように聞こえた。


「いや、ありえないな」


楓はくすりと笑って山崎の持つ提灯が遠ざかるのを見送る。


「帰る…か…」


急に全身がむず痒くなった楓は、頭にできた瘤を擦りながら八木邸に帰っていった。