楓の除隊が取り消されたのは土方が屯所を出て間もなくの事だった。


「お前ら、別に付いてくることないんだぞ?」

集会があるとき以外滅多に通らない廊下を数名の男たちが歩いていた。

「別に新八っさんに付いてってるわけじゃないよ!俺がこうしたいんだ!」

先頭を歩く新八の背中をバシっと叩き苦笑するのは、額の傷が癒えたばかりの藤堂。

「ぶははは!八っさんがみんなを引き連れてると思ったら大間違いだぜ!!」

夜のせいもあり、昼間より余計に響く原田の声が後に続く。

「左之さん、夜なんだから少しは声量落としたらどうだい?」

ばか笑いする原田の腰を小突く井上は耳を塞いでいた。

「でも、こんな大勢で押しかけて大丈夫なのかな?」

「きっとこういうのは、代表だけが行くより数で押した方が迫力あるだろ!」

井上の後ろにさらに続くのは楓と腐れ縁の安藤と、馬越、山野。その更に後ろにも数名が列を成しており、総勢十八名の長蛇の列が狭い廊下を埋め尽くしていた。


「楓が除隊なんて駄目だよ…」


「あいつから刀奪うなんて酷な話だ」

目指す場所を目の前にし、藤堂と原田が顔を見合わせて笑った。


「着いたぞ」


永倉の言葉に皆しんと静まる。

彼らが目指した場所。それは局長室であった。