――ジャラ…


「お取り込み中失礼します」

「山崎さん」

提灯を片手に持ち、闇に溶け込む黒装束を纏い現れたのは、山崎であった。


「ちっ!何で狐まで来よるんや?」


「副長。そこの猪の顔がどんなに酷くなろうと関係なくなりました」

楓を瞳に写すことなく、山崎は不満そうな表情で土方を見た。


「…まさか」

勘のいい土方は山崎のその一言で全てを理解し、眉間の皺が伸びきるほど目を見開いた。
沖田と楓は二人の間で交わされる無言の会話に、首を傾けている。



「永倉組長を始め、ほとんどの隊の組長と一部の隊士の抗議により、そいつの除隊は取り消しになりました」

残念ながら、と最後に小声で付け足した山崎は、ここにきて初めて楓を睨み付けた。


「あららー!それは残念だったね山崎くん。こういう時こそ日頃の行いが物を言うんやで?」

(この女…腹立つ)


ぎゅっと口を一文字に締め、憎らしく高笑いをする楓への怒りを何とかやり過ごす山崎。悔しいが事実だから仕方がないとひたすら黙りこくる。