七月二八日。正午過ぎ、隊内を揺るがす一つの事件が起こった。


「…一体どうしたってんだよ?」

事件現場に立ち合っていた永倉新八は、冷たい水を張った桶と手拭を持って襖を閉めた。

「どうもこうもない」

明らかに不機嫌で悔しさを滲ませた声。永倉は、気分の悪さをどうにか解消しようと胡坐をかいて貧乏揺すりをしている人物の正面に座った。
白い道着の袂にはまだ乾ききらない血液が鮮やかに水玉模様を描いている。左頬には大きな痣。唇の端は切れ、次から次へと血が流れている。
手拭を桶の水に浸し、軽く絞りながら永倉は言った。


「無敗神話も形無しだな。楓」

手渡された手拭を乱暴にひった繰ったのは、永倉の正面に座る人物、赤城楓だった。

永倉が閉めたのは楓の部屋と廊下を仕切る襖であった。

「たまに負けるのも悪くない」

誰が聞いても本心ではないとわかるほどの安い嘘に、永倉は苦笑する。

「相手が総司でも?」


「…」

総司という名に、手拭を持った楓の手が一瞬動きを止めた。