「…で?何だってこんなクソ忙しい時に一隊士の話をしようと思ったんだ?」

怒っている。確実に。
歳の荒々しい語気が部屋の空気を更に緊張させている。

「今が潮時だと思ってな。数日前の戦で幕府は更に倒幕派の負号を買ってしまった。またいつ戦になるやもしれん。その前に彼女には「何度も言わせるな。近藤さん」

強引に言葉を切られ、一瞬吃ったところを見逃さず、歳は言葉を続けた。

「除隊はさせない。こういう事になる可能性があることも承知で、あいつは自ら入隊してきた。浅葱の羽織に袖を通した時点で死ぬ覚悟はできてるとみなす。前にも言ったよな?例外なんてねーんだよ!今までもこれからも」

最もな主張だと思う。自分とて、赤城君が男だったらこんな事は言い出さないだろう。

そう、男なら…


「俺だってあの子が女子でなければ容赦はしない!だがな歳。命をかけて刀を振るうことは男、女、子供、誰にでもできる。しかし、新しい生命を宿し育むことは女にしかできん」


「…」

「そんな尊ぶべき存在をこれ以上危険に曝す事は、俺にはできない…」


都合のよすぎる話に自分でも吐き気がする。これは歳を裏切る行為であり、新撰組の基礎を揺るがす行為でもあった。


――それでも、俺は赤城君を戦場で死なせたくない



「あいつは…赤城は、俺に面と向かって“新撰組に命を捧げる”と言った。俺はそれに信じると答えたんだ。
除隊させるってのは、俺が、俺たちが奴の尊厳を踏み躙る行為を意味するんだぞ!?あんたはそれを解って言っているのか?」

近藤さん!と何かしらの反応を求められ、酷く狼狽する。

答えが出てこない。

そもそも、答えがあるのだろうか?


あったとしても、それは万人を幸せにする事はできないだろう。