――元治元年(一八六四年) 七月二八日


この日は見事な晴れだった。

長州との戦から早七日。時の流れがこんなにも速いと感じたことはなかった。
京の人々の前向きな姿勢ともの凄い行動力によって焼かれた町は復興の兆しを見せ始めた。
滅多に人を褒めない歳が先日、隊士たちはよくやっている。と、小さな声で呟いていた。確かに、この七日新撰組の隊士たちは一人一人頭を撫でて褒めてやりたいくらいよく働いてくれた。
町には段々と活気が戻りつつあり、隊士たちも皆生き生きと復興の支援をしていた。

だから余計に目立つのだ。

あの子の姿が…




「聞いてるのか近藤さん!?」


「…ん?ああ…」

「何だそりゃ」

「何か気に掛かる事でもあるんですか?」

思いに耽るあまり、五感を完全に閉ざしていた事に今更気が付いた。見れば渋い顔をした歳と山南の気遣うような表情があった。

「あ、すまん。少しぼんやりしていた。悪いが、もう一度言ってくれないか?」

ははっと笑って誤魔化してみたものの、二人は明らかに訝しんでいる。

「ったく。しっかりしてくれよ!あんたの話をしてるんだ。いいか?恐らく、あんたはこれから会津からの呼び出しも他のお偉いさんとの会合も、今までの比じゃないくらいに増えるだろう。だから山南さんには副長ではなく、“総長”として近藤さんの政務を助けてもらう」

「おお!そうか、山南がこれから一緒にいてくれるのか!いやーありがたい!!」

実のところ政務などの難しい事は好きではない。一つの集団をまとめる者には向いていないと自負していたが、今度からは山南が同行してくれると聞いて素直に嬉しかった。

「到らない所は多々あると思いますが、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします!」

深々と頭を下げる山南に吊られて、自分も額が畳につくくらい頭を下げた。
局長がそんなに謙虚じゃ困るんだよ!と歳に小言を言われるまでにさほど時間はかからなかった。