「…桂さん」


名を呼ばれて我に還る。

「おんしにとってわしは認められん人間かもしれん。やけど、この国を思う気持ちは変わらん!力を貸して欲しいんじゃ!」

「外国と商いをしている奴が国を思っているというのか?!俺には理解できん!」

「外国と商売する事が必ずしも日本を悪くしちゅうわけがやない!」

「貴様とて外国勢の長州攻めを知らぬわけではなかろう!?突然海からやって来たと思えば武力で開国を強制させるような野蛮な輩。あいつらのせいで長州の人々がどれだけ傷ついたと思っているのだ!」

「長州の悲劇は知っちょる。でもほりゃあ付き合い方の問題なんじゃ!」

食い下がってくる坂本は、逃がすまいと俺の袖を握り締めている。こんな戯言に付き合っている暇などない。

「その手を離せ!俺は急いでいるんだ!!」

「御所に行く気か?」

「貴様には関係ない!」

坂本の手を振りほどこうと激しく腕を振るが、浅黒い手は全く離れる気配がない。

「はや(もう)手遅れだ!おんしのとぎ(仲間)が御所に砲弾を浴びせたらしい!さっこう(さっき)どっかの誰かがゆうちょった!」