「今のは何ぞ!?」
長州藩士殱滅の狼煙となる轟音は、肥前藩の藩邸を訪れていた坂本龍馬と中岡慎太郎の耳にも届いていた。
長州藩と幕府が交戦していることすら知らない坂本らは、お互いを見合って首をかしげることしか出来ない。
「なんじゃ?こんな日の高い内から花火とは流石京都じゃの!あははは!!」
唯一、坂本だけはふん反り返って呑気に笑っていた。
――カンカンカンッ
「火事だ火事だーっ!逃げろー!」
坂本を除く者たちが眉を八の字にしている最中、突然の耳をつん裂く警鐘音と、しゃがれた火消しの叫び声が聞こえてきた。
「…どうやら、ただ事ではないようですね」
目をぎょろりと忙しなく動かしている中岡が、向かいに座している肥前藩の福島に声をかけた。
「長い間睨み合っていた長州と幕府が動いたのかもしれませんな」
少し緊張しているのか、安定しない音程で返事を返す福島。
「とりあえず、火消しが逃げろ言うちょるき、ここは散るぜよ」
原因はいずれ解る。と続けて、坂本は左手に刀を持ち、近くの格子窓から外を覗く。
道には、既に荷車や大きな風呂敷を背負った人々が避難する宛もなく右往左往していた。

