「副長、大変です!!」
厳しい顔で考え込んでいた土方の元へやってきたのは、監察方の山崎蒸だった。彼には珍しく顔の色をなくして険しい表情を顕にしていた。
「何かあったのか?」
山崎のこの様子では、どうせ悪い知らせだろう。
こうなると、土方にとって重要なのはその程度である。
できれば覚悟を決める猶予が欲しいと思った土方だったが、その望みが叶うことはなかった。
「天龍寺に潜伏していた長州藩士が御所に向けて砲弾を発射したようです!」
間髪を入れず口を開いた山崎の言葉は、そこにいる全ての者を凍りつかせた。
表情を緩ませていた沖田でさえも蒼白にするような山崎の報告。それは、策士と呼ばれる土方ですら想像できなかった。
――日本の象徴への攻撃
日本を敵に回す事を意味する長州藩の行為は、彼らが唱えていた尊王の二文字を見事に吹き消した。
「見ろ!!化けの皮がついに剥がれたぞ!長州はやはり朝敵だッ!」
「帝のお命を狙うなんて許されざる行為!皆の者、朝敵を斬れーーッ!!」
「「うおぉぉ!!」」
各所で長州を非難する声が上がる。
朝敵という新たな二文字を押しつけられた銭取橋の長州藩士たちは、現状を呑み込めないままただ向かってくる者に刀を振り回す事しかできない。当然、迷いながら振られる刀は脆く、次々に倒されていく。
あっという間に佐幕派の一方的な有利となってしまった。

