幕末異聞―弐―



「なんだ!?今の音は?」


桂のいる伏見よりも大音量かつ早く、この轟音を耳にした者たちがいた。

「花火…にしては気が早すぎますね」

「…うむ」

銭取橋で激しい攻防を続けていた新撰組。
彼らのいる場所では、伏見とは比べものにならないほどの地震が起こっていた。

いきなりの出来事に、誰もが目の前の敵を倒す事を忘れ、きょろきょろと辺りを見回す。


「おい!無事か!?」

「土方さん」

正体不明の轟音が響く中、羽織に若干の返り血を浴びた土方が沖田、斎藤に駆け寄ってきた。

「私たちは大丈夫ですよ。それより、今のはなんですかね?」

どんな状況であろうと飄々としている沖田は、この場においても相変わらずであった。口元は戸惑う者たちの姿を嘲笑うように弧を描く余裕さえ見せている。

「周りの様子を見る限り、長州の者たちも状況を掴めていないようだ。少なくとも、ここにいる長州藩士は何も関わっていないだろう」

悠長に懐紙を取り出して血濡れの刀を拭き出した斎藤。どうやら、彼も今の轟音には興味がないようだ。

「ああ。俺も、斎藤君と同意見だ」

二人の悠長な態度に、呆れつつ土方は溜め息をついた。

未だに鳴り止まない残響の中、悲鳴や刀がぶつかり合う音は聞こえない。それはつまり、佐幕、長州藩共々今の音に集中しているという事だ。

「ここにいる長州の奴らが予期しなかった音…。一体…」