――元治元年(一八六四年) 七月一八日


晴れだというのに池に浮かび上がる自分の冴えない顔に驚いた。

何を迷うことがある?

俺は幕府のせいで腐ってしまった世を直すためにここにいるのではないか。

何も間違ったことはしていない…

間違ってなど…



「久坂」


「…来島か。何か用か?」

図ったように考え耽る時間を与えてもらえない。
仕方なく背後の声に振り返る。

「何か用もヘチマもない。明日、進軍する」

「何処に?」

「…お前、寝呆けているのか?御所に決まっておろう」

「……御所?何故だ?俺たちの敵は幕府のはずだ!」

考えられない。
何故守るべき帝に向けて進軍しなければいけないのか?

「ああそうだ。だから幕府が大量の兵を置いている御所を攻め、帝を長州にお連れするのだ」

「…帝の安全は保証されているのか?」

「ああ。任せろ」

戦に安全を問う自分はどうかしている。それはわかっているが、稔麿や散っていった仲間の意志を尊重してやりたい。

そのためには、なんとしても帝を長州へお連れしなくては…

「わかった」

「頼むぞ!久坂」


待っていろ稔麿。明日、ようやくお前と松陰先生の願いが実現するのだ。