「なんか無性に腹が立つ」


「何それ?」


銭取橋でありもしない事実を押し付けられた事を知ってか知らずか、屯所に残された楓は眉間に皺を寄せていた。

「殴らせろ」


「…理不尽すぎでしょそれ」

いつものように傍らに愛刀を置き、額に包帯を巻いた藤堂と縁側に座っていた。

深緑の背景には快晴の空。日向ぼっこをするには申し分ない日だ。

「あ〜…俺も行きたかったなぁ」

庭に植えられた木を見ながら藤堂は欠伸をする。

「死に損ないが生意気言うなや」

「厳しいね〜」

この時、藤堂は隣にいる楓に違和感を感じていた。
見たところ怪我をしているわけでもない。

戦で先頭をきる様な奴が何故残留組なのか?


「何でうちがいるのかとか下らんこと聞いたら額割るで?」


「……肝に銘じておきます」

自分の考えていることを意図も簡単に楓に見透かされてしまった藤堂は、質問の期を永遠に失ってしまった。



「やあ。二人とも退屈そうだね?」



「あ!山南さん」


もう一人の残留組、副長の山南が藤堂と楓の後ろに立っていた。

「山南さんもどこか悪い所でも?」

“残留とは怪我もしくは病に伏せている者がするのだ”という固定観念を持っている藤堂は心配そうに山南を見回す。

「いやいや。そういうわけじゃないんだ。ほら、ここには平助や楓君みたいに元気な人ばかりじゃないだろ?
だから山南さんは屯所に残れ!って土方君に怒られてしまってね」

言われた時の情景を思い浮べてくすくすと笑う山南。楓は横目でその姿をつまらなそうに見ていた。