「だから!久坂玄瑞に会わせろと言っているんだ!」
「しつこい!今は部外者である以上、何人たりともこの門を潜らせるわけにはいかん!」

「だからさっきから言っているだろう!?俺はあんたたちと同じ長州藩で、久坂玄瑞は旧友だって!」

「黙れ!!従わないというのであれば今ここで斬り捨てる」



――嵯峨・天龍寺


竹が生い茂る閑静な土地に響く怒鳴り声。

長州藩士・桂小五郎は厳重に閉ざされた大きな門に頭を痛めていた。

「はぁ…。俺は桂小五郎。玄瑞に言えば誰だか直ぐにわかる!門を開けなくてもいいから名だけ伝えてくれ」

「断る!帰れ!!」

ここを訪れてから繰り返し続くこの会話。からくりのように同じ返答をする門番に桂はうんざりしていた。

「俺はただあんたたちと話がしたくて来ただけなんだよ…」

「話すことなどない!」

迷いのない門番の返事が桂に浴びせられる。
友の元へと続く門を目前に行く手を阻まれ、桂は苛立っていた。

「…もういい!!その代わり、玄瑞に伝えろ。桂が来たと」

これ以上の交渉は無意味。そう悟った桂は、怒り納まらぬまま天龍寺の門に背を向けた。

「…承知した」

頑なに開門を拒否してきた門番も、桂のこの要求を断る理由はない。
背を向け、荒々しい足取りで天龍寺を後にする桂に門番は小さく頷いていた。




「クソッ!!伏見も嵯峨もこの有様…これでは話し合いどころか顔を合わせる事すらままならない!」

葉の作る影に覆われた竹林の中を、親指の爪を噛みながら進む桂。

「こんな報復、無駄な犠牲を増やすだけというのがわからんのか!?馬鹿共めが!!」

怒らせた肩で風を切り、桂はものすごい速さで長州藩邸を目指した。