少年のように瞳を輝かせる坂本に魅せられた中岡の口は、もう何も発することができなくなっていた。


――この瞳が皆を魅了して離さないのか…


坂本の生まれ持っての人を惹きつける力を自身で実感した中岡は、深く息を吸った。


「おまんの好きにせい。わしゃ知らん!」

「慎太郎!」

さっさと行けと言わんばかりに、中岡は坂本に背を向けてしまった。しかし、その背中は見捨てたとか、怒っているというものでは決してない。
坂本には、それが中岡流の見送りだと解っていた。


やがて、音も無く立ち上がった坂本は、相変わらず自分に背を向けている中岡を見下ろした。


「慎太郎、“ぱーとなー”がおまんでわしは幸せじゃ!行って来る」




――ガラッ



古くなって茶ばんだ襖を勢いよく開ける音を聞いて、中岡は俯いて目を閉じた。


「まったく。生粋の阿呆じゃありゃ」


バタバタと落ち着き無く階段を下りていく足音に苦笑した中岡は、壁に立てかけていた刀を握り、友の無事を祈った。