「何や最近壬生狼がぎょうさんウロウロしてはるなぁ」

「あんなんがウロついてたら商売上がったりや!」


嵐山の方角に夕日が綺麗に見える頃、二人の女が酒屋へ買出しに出かけていた。
三本木の料亭にはもう掛行灯に灯りが灯っている。


「一体何が起こってるのか、庶民には全くわからんわ」

風で乱れた髪を手櫛で整えながら、赤色の着物を着た若い女がため息混じりに言う。

「何が起ころうが構いまへん。でも、お客はんが減ったら明日の飯の心配せなあかんわ!」

酒壷を胸に抱えながら、漆黒に金の刺繍が入った着物の女が頬を膨らませた。

「あっははは!お松ちゃんらしい心配やな!!」

まだあどけなさが残る若い女は、お松の発言に大笑いしている。

「笑い事じゃあらへ…」


お松は何かを言いかけ、前方を見たまま止まってしまった。

「お松ちゃん?」

若い女は異変に気づき、お松の見ている方向を一緒に見る。


「あ…壬生狼やん?」


二人の視線の先には新撰組の象徴となる浅葱色の羽織がいくつもあった。
夕焼けの橙色のせいで、色は若干違って見えるものの、袖に染め抜かれたダンダラ模様は間違いなく新撰組のものだった。どうやら彼らはどこかの料亭を目指しているらしい。

「何かあったんかな?」



「……志乃ちゃん」


お松は前方を見たままいきなり持っていた酒壷を志乃に押し付けるようにして渡した。

「ごめん!これ持って行っておくれやすッ!!」

「ええ?!!ちょっとお松ちゃん?!どうしたの?!!」

志乃の言葉にお松は答えることなく、着物を着ているとは思えないほどの速さで走り、細い路地に入っていった。



「な…なんなのよ…」


志乃はお松の意図がわからず、仕方なく、言われた通り酒を目的地まで運ぶ事にした。