「吉田稔麿も…あの弾圧の被害者だったのか」

近藤は、潰すべき敵でありながら、吉田を哀れんでいた。


――もし自分が慕っていた人間を理由もわからず殺されてしまったら…


前に居る二人の顔を交互に見て、近藤はやりきれない気持ちになった。



「吉田は…どう思っているんだろうな」

幕府に対しての憎しみは想像を絶するものだろう。
眉を顰め腕組みをする近藤。

「そんなの関係ねーよ。近藤さん、敵に感情移入しちゃいけねぇ。今だけを見るんだ。幕府の危険因子となる吉田稔麿だけを!」

近藤の心の迷いを一掃するかのように、あえて厳しい言葉をかける土方。

「そうですよ。敵討ちといっても、実際は関係ない人々まで犠牲になっているんです。このままだと、京都にいる何の罪もない者たちが傷ついてしまうかもしれないのです」

山南も、土方の言葉に加勢した。



「…うむ。君たちの言う通りだ。早速、監察方に動いてもらおう」

何かを吹っ切るように近藤は自分の膝を叩く。

「もちろんだ。今回はちょいと人手を割くが、よろしいですか?局長」

土方は敢えて近藤を局長と呼んだ。
しっかりしてもらわないと困るという気持ちの現われだったのだろう。それに答えるように近藤は、大袈裟に頷いて命令する。

「監察をどのように使うかは君に任せよう。そして、今日から巡回の回数を増やして、不審な動きをする者は問答無用で捕縛し尋問せよ!」

近藤の野太く勇ましい声に土方と山南は気を引き締め、それぞれの役割を果たすために自室へ戻っていった。



四月二十四日、新撰組の不安を反映するように、空にはどんよりとした灰色の雲が立ち込めていた。