――バシッ!!


「し…新撰組です!!皆さん早くお逃げくださいッ!」

「な、何だって?!!」

亭主の危機迫る声に、計画の説明をしていた宮部が大声を上げた。

「し…新撰組だって?!」

「一体どうやって此処を…」

新撰組と聞いて部屋にいる浪士たちはザワめく。


「火を消せ!!皆刀を抜くんだ!亭主は裏庭から逃げなさい!」

動揺した同志を前に、吉田は立ち上がって、追い詰められていると思えないほど冷静に指示を出す。
ふっと誰かが行灯の火を消し、部屋の中は闇に包まれた。

「壬生狼は浅葱の羽織を着ている!それを目印に仲間との区別をつけろ!」

松田重助が震える声を抑えて見えない同志の位置を確認する。


――ダンダン…ダン!!


(…やはり裏階段の嫌な予感は的中したか)

窮地に追いやられても尚、平常心を保つ吉田。
階段を上る足音が途絶え、いよいよという所で鯉口を切る。二十数名の仲間たちは、既に息を荒くして部屋の出入り口に意識を集中させた。



「御用改めである!!手向かい致す者は容赦なく斬り捨てる!」


亭主が開け放った襖の向こうに姿を現したのは、白地の羽織を着た厳つい男、近藤勇であった。
部屋に飾られた掛け軸が揺れるほど声を張り威嚇する。その声は、後ろに付いた沖田も驚くほどの迫力であった。攘夷浪士たちは、近藤の迫力に押されて鞘を持つ手に力を込める。


「く…クッソォォーー!!幕府の狗め!!!覚…」


――バシュッ…

雷が落ちる時の強い閃光に似た光。
その光と同時に襲い掛かろうとした攘夷浪士の一人が倒れ込んだ。


「理解して頂けましたか?抵抗しなければこうならないで済むということです」

「「「…」」」

浅葱色の隊士の足元に転がる仲間の死体とそこから流れ出るどす黒い血に絶句する浪士たち。何よりも、人を斬っても笑みを浮かべている沖田が無言の恐怖感を与えていた。