「「「?!」」」


不意に近藤が足を止め、真後ろを向き、隊士たちに向き直った。

「駕籠に乗ったことはあるのか?」

近藤の突然の質問にどう答えていいかわからず、隊士たちは隣同士で顔を見合わせて困り果てていた。


「あの…自分は、乗ったことはありません」

列の中間辺りを歩いていた奥沢栄治が恐る恐る近藤の質問に答えた。奥沢の言葉に対し、皆一斉に首を縦に振る。その反応を見た近藤は、額に人差し指を当てて静かに俯いた。


「では、この大仕事が終わったら、宴を開こう!そして、皆駕籠に乗って宴会場まで行くのだ!!」


パンっと無邪気な笑顔で一同を見渡す。

「一仕事して、皆でうまい酒を飲もうではないか!」

間もなく池田屋のある三条通に入るという緊張の場面で、なんと的外れな提案だろう。
内心では皆そう思っていたが、この大将の言葉は、彼らの精神的主柱となった。


満を持して戦いに挑める。


何故か隊士たちの中には根拠の無い自信が芽生えていた。
近藤の影響力を改めて実感した藤堂は、腕を高々と上げ拳を作った。それを見た他の隊士も夜空に向かい、次々と拳を上げていく。


「うむ。では、参ろう!!」

「「「おおぉぉーーッ!!!」」」


走り出した近藤の白い背中を追う近藤組の隊士。三条通の枝垂れ柳が並ぶ道を風の如く走り抜ける。

“旅駕籠 池田屋”の文字はもうすぐそこまで迫っていた。