「まさか…あのお侍様を斬りに行くんじゃ…」


「ばっ!馬鹿なこと言うな!とりあえず俺たちは何も関係ない。普通に駕籠運んでりゃいいんだ!」

「あ…ああ」

前を走る男が駕籠を道の端に寄る様に先導した。後ろの男もそれに習って道の端に寄せる。そして、遂に新撰組とすれ違うまであとわずかの距離まで近づく。
二人の駕籠屋は生唾をゴクリと音を立てて飲み込んだ。


――ザッザッ…


当然、客を乗せていないただの駕籠屋には目もくれずすれ違った新撰組一行。
新撰組の後姿の全体像が見えるようになるまで離れると、ようやく駕籠屋の二人は息を吐いた。


「やれやれ、緊張したなぁ!」

前の男が肩に掛けた手ぬぐいで額の汗を拭う。

「そうやな。しかし、さっきの話、満更でもなさそうだ…」

「あ?!何か言ったか?」

「いや!何も!!」

後部を担いでいる男は、気の抜けた顔をしている前の男に笑顔で答えた。

(あいつら、皆刀の鍔に手を掛けてた…)


この駕籠屋の男が、池田屋に乗り込む前の新撰組を最後に目撃した人物だという事実は誰も知らない。