「たまにはいい所があるじゃないですか」
「…聞いてたのか。悪趣味め」
山南と別れて大部屋に行く途中、廊下の突き当たりに隠れていた沖田が土方に声をかけた。
「ふふ。偶然ですよ」
「どうだか」
土方は止まることなく、横目で沖田を睨んだ。
無愛想な土方の真横に並んで歩き出した沖田は、正面を向いたまま土方に問う。
「知ってるんでしょう?」
「何を?」
「山南さんがもう人を斬れない事」
「…」
やはり沖田の鼻の良さには負ける。と珍しく自分の敗北をすんなり認めた土方は、重く長い溜め息をついた。
「知ってるよ」
「だからここに残した?」
「…それは違う」
「?」
沖田の言い方だと、“戦場では邪魔になるから残していく”という意味になってしまう。だが、土方の本心はそうではなかった。
「この動乱の世が終わったら、山南さんの様な人が必要になるだろう。
俺らみたいな刀振り回す奴らの時代は終わりだ」
「言論が武力よりも勝る時代…か。
はは!そうなったら私たちは職を失いますね!」
沖田は両手を後頭部で組み、のん気に笑っている。
「ふっ。いいじゃねーか。武州に戻ってのんびり畑耕すのも悪くないんじゃねーの?」
「確かに!」
二人は出陣前にも関わらず、武州にいた時のようなとても和らいだ雰囲気で大部屋の襖を開けた。

