「山南さん」
局長室を出て誰もいない廊下を歩いていた土方が急停止する。
「何だい?」
山南は背紋の誠の字を見て土方の呼びかけに答えた。
カチャリと振り向くための動作で腕に抱えた防具同士がぶつかり音を立てる。そして、土方は山南に向き直った。
「あんたは此処に残っててくれねーか?」
「!?」
突然の土方から出された提案に山南は耳を疑った。
「俺が死んだ時に近藤さん支えてくれる奴がいねーと死に切れないからな。勝手知ったるあんたがここにいてくれたら、俺は安心して戦える」
浪士組を結成した時から一瞬たりとも外したことの無い鬼の仮面を取って土方は柔和に微笑む。山南は土方のその笑顔に胸騒ぎを覚え、空かさず反論する。
「な、何を言っているんだ!!私も皆と戦う!そんな風に笑うのはやめてくれ!君らしくないぞ?!」
「俺は人に頼るなんて滅多にしない性質なんだ。今だって、こんな事あんた意外には絶対に頼まねーよ」
「土方君…君は…」
山南は、不快そうな顔をする。
「別にあんたが使えねーから残れって言ってんじゃねえ。信用してるからこそ残って欲しいんだ。此処には今、怪我人やら病人やらがうじゃうじゃいる。そんな状態で万が一敵襲を受けたら終わりだ」
「それは…」
土方の尤もらしい意見に口籠る山南。
「俺はあんたの腕を信じて言ってるんだ。頼む」
人にものを頼む事に慣れていない土方は語尾を荒げて言い捨てた。
「……わかった。屯所は私が守ります!」
人を誉める事にも人を頼る事にも慣れていない土方が、不器用ながらここまで自分を信じて頼ってくれている。そう思うとこの依頼は受けない訳に行かなかった。
「ああ。頼んだ」
山南の気合の籠った返事を聞き、少しだけ笑って見せた土方は、白い隊服を翻して廊下を歩いていった。

