「……」
幾松は全てを悟ったのだと確信した桂は、気休めの嘘を付こうとした口を閉じた。
――遠くに行くと言えば、例え死んだとしても幾松は俺の死を知る事無く平穏な日々を送ることができるだろう。
桂はそう思っていた。
しかし、当の幾松がそれを許さなかった。
「どうか、隠さんでおくれやす。嘘はつかんでおくれやす…」
幾松は一歩桂に近づいて頭一つ分上にある桂の顔を見上げる。
「…幾松。すまない…もう君には会えないかもしれない。
君は美しいから、俺のような男がいなくても客はいっぱいいるし、慕ってくれる人もたくさんいる。寂しくは…」
――パシンッ!!
言葉を言い終える前に、破裂音に似た乾いた音が桂の鼓膜を刺激する。
一体何が起こったのか理解できない桂は、しばらくしてから自分の頬にジンジンと疼きを感じた。
必死で状況を把握しようとする桂の目に信じられない光景が飛び込んできた。
「そういう問題やありまへんっ!!!」
桂の目の前には、右腕を振り上げ怒鳴る幾松の姿。
自分の左頬の痛みは幾松の平手で叩かれたことが原因だったのだとやっと理解した桂。原因がわかって息をついたのも束の間。次の瞬間には新たな衝撃映像が彼の視覚を襲う。

