――ガラッ!
「うおっ!!幾松?!何故裸足なんだ?!!」
玄関の戸を開けた瞬間、幾松の目と耳に飛び込んできた懐かしい顔、懐かしい声。
「…起きぬけなんやから仕方あらへんやろ?」
嬉しいはずなのに平静を装う自分に幾松は歯痒さを感じたが、桂の顔を見るとますます冷たい態度になってしまう。
「そうなのか!?…それはすまなかった」
幾松の本心を知らない桂は、幾松が怒っていると勘違いをしているようだ。
「…久しぶりだな」
「ええ」
「元気だったかい?」
「ええ」
桂の微笑から見え隠れする暗い影が幾松の心をざわめかせた。
ぎこちない形式的な挨拶を済ませた二人は目を合わせることなく黙り込んだ。
「…幾松」
桂は太陽の傾き加減を横目で確認して沈黙を破る。
「…解かっています」
白粉を塗っていない幾松の顔は、夕日によって健康的な淡い橙色に染められた。何の手も加えていないというのに、言葉を発した時の彼女の目はいつもと変わらず力強さがあった。
桂はそんな幾松にしばしの間見惚れていた。
「危ないところに行きはるのでしょう?」
京言葉を使っているせいで、彼女の色気を含んだ声は更に妖艶さを増す。

