――六月五日


雲ひとつない快晴に恵まれた京の町は、朝だというのに賑わっていた。祇園祭が目前まで迫っているのだ。
最初は聞くに堪えなかったお囃子も、今では通行人を立ち止まらせる程に上達していた。それぞれの地域の鉾や山も姿を現し始め、いよいよ祭りが近づいてきたことを感じさせる。



「おい!楓。お前防具は?!」

「いらん。そんなもん着けとったら重くて動けん」

そんな中、壬生の新撰組屯所では、町に充満する祭りの雰囲気とは全く違った空気が流れていた。

隊士全員が浅黄色の隊服を羽織って慌しく屋敷内を右往左往している。
刀の手入れをする者、仲間に月代を綺麗に剃り落として貰っている者、一張羅の着物一式を長持から出している者。
隊士それぞれが違ったことをしているが、それらは全て戦に関係した行動であった。

今朝、土方が直々に古高の尋問をすると聞いた隊士たちは、今日中に何か大きな事が起こると予測し、いつでも出動できるように準備をしているのだ。


仲間の隊士の忠告に全く耳を貸さない楓の格好といえば、着物の上に襷掛けされた隊服。そして、手には肌身離さず携帯している大太刀という普段とほとんど変わらぬ装いだった。
唯一大きく変わっている所といえば、肩甲骨までだらしなく伸びた髪を頭頂部でしっかりと結っていることくらいだ。


「…お前鉢金もしないのか?」

すっかり武装した永倉が楓の全身を上から下まで眺める。

「でこにそんな重いもん着けたら落ちてきそうな気がして逆に集中できん。新八こそそれで出る気か?!」

「これが普通なんだよ!!見ろ!左之助だってちゃんと防具着けてんだぞ?!」

永倉はクイっと右手の親指で自らの後ろを指した。首を傾げて永倉の指す方向に視線を移す楓。

「ほんまや!!」

楓の視界に映ったのは、額に鉢金を当て、手には銅が縫いつけられている手袋を着けた原田だった。