「そんなん言い訳や。ごめんなさいというんは軽かろうが重かろうがそういう意味を含んどるもんや」

「そんなのずるいですよ!!」

「何がずるいんや?」

圧倒的に優位に立った楓は余裕の笑顔で不満そうな沖田を凝視した。


「…それは」


引き止めたはいいものの、反論するための言葉を考えていなかった沖田は何も言えない。冷たい目で言葉の出ない沖田を見ていた楓が、遂に我慢の限界に達する。

「そいじゃ、後は頼むわ」

そういい残すと本当にその場から立ち去ってしまった。


「ちょ…!楓の馬鹿―!!」


誰もいない雑木林に向かって叫んではみるが、驚いたのは昆虫や野生の動物たちだけだった。
急に虚しくなった沖田は、蔵を背に膝を抱えて一人寂しく体育座りをして交代の人員を待った。







強引に隊務を終わらせた楓は、生い茂る草を踏みながら両手で頭を掻き毟って歩いていた。

「山崎が余計な事言うからあかんのや!」

独り言にしては大き過ぎる声で呟く。楓はボサボサになった髪の毛を整える事もせず、屯所に早歩きで向かう。

「あいつもあいつや!“健康”とかほざきやがって!!診療所にぶち込んでやろうか?!」

女性とは思えぬ恐ろしい言葉を吐き捨てる。


(…白黒はっきりさせた方が気が楽にならんかな?)

「こんな微妙な時期に何かあってもうちは知らんぞ!」

どうしようもできない自分に対し苛立つ楓は、ぶつける相手のいない暴言を青い空にぶつけるが、宥める言葉はおろか反撃する言葉なんて当然返ってくるはずもない。

そういった状況が楓の中の蟠りを更に濃密にした。