「楓なんて大嫌いです」

「そうかい」

「もう絶対おいしいお茶屋とか教えてあげません」

「はいはい」

「楓なんて豆腐の角に頭ぶつけて死んじゃえばいいんです!」

「そうだな」

「ついでに土方さんも」

「そう…じゃねーだろッ!!何で俺が出てくんだよ?!てか、何でお前ここにいるんだよ?!!邪魔だから出てけ!!」

久しぶりに土方の部屋に遊びに来ていた沖田をいかにも迷惑そうに手で払う部屋の主。

「ははは!冗談ですって。だって暇なの土方さんしかいないんですもん。近藤さんと山南さんは会津藩邸の会合に出かけちゃってるし…」

沖田は本当に寂しそうな顔をする。
鴨川での花見以来、近藤は屯所を留守にすることが多かったため、沖田などは滅多に話す機会がなかったのだ。


「俺は決して暇なわけじゃねーよ。そのない頭でよく考えてみろ。重役が全員いなくなったらどうしようもねーだろ?」

「とか言っちゃって〜!土方さん、本当は寂しいんでしょ?」

にやにやと馬鹿にするような笑顔で沖田は土方の背中を肘で小突く。

「んなわけねーだろ!お前じゃあるまいし。
お!赤城帰ってきたんじゃねぇか?」

土方は業とらしく顔を机から離し、玄関の方に顔を向けた。

本当は帰ってきたかどうかなど全くわからないのだが…


「やっと帰って来ましたね!!絶対仕返ししてやりますから!」

ギラリと目を光らせ、そのまま勢いよく土方の部屋を出て行った沖田。



「…すまん。赤城。犠牲になってくれ」

やっと静かになった部屋で大きな伸びを一つした土方は、姿の見えない楓に対して謝った。