「……会合を」


「会合?」

ボソリと聞こえるか聞こえないかくらいの声で宮部が呟いた。

「今日の会合を中止しましょう。
今夜辺り、長州藩邸の回りは壬生狼がうろうろしているでしょうから。明日の同じ時間、改めて場を設けるという事にしてはいかがでしょうか?」

何かの糸が切れたようにいつもの宮部の口調に戻る。



――喜右衛門の意思を絶やさない為に…



今の宮部を支えているのは、ただ一つ、この言葉であった。彼の瞳の奥底には、怒り狂う己と戦う冷静な宮部がいた。

吉田は怒りと悲しみで震える宮部の拳にそっと手を沿えて、ゆっくりと彼の提案に乗じた意見を伸べ始める。

「すぐに手配しましょう。それと、会合には同志たちを集めます」

「吉田先生!!」

「この事態を、俺も黙って見ているわけにはいきません」

吉田は、いつの間にか震えの止まった宮部から離れ、踵を返した。

「すぐに長州藩邸に使いを出しましょう」

「は、はい!!!」

その言葉を聞きたかったのだというように、宮部の顔はより一層精悍になる。そして、急いで書簡を作成するため、吉田への挨拶も忘れてバタバタと長屋から出て行った。





「…幕府の狗め。ふざけた真似をしてくれる」

薄暗い長屋の中、一人になった吉田は歯を食いしばり愛刀の柄をギリギリと音がするほど強く握り込んだ。