「ふむ。斉藤君なら意外と早く聞き出せるだろう。土方君、山南君、何かあるかね?」
近藤が土方、山南の順に見ていくが、二人は無言で目を伏せた。
「よし。両組長ともご苦労であった。下がってよいぞ」
「失礼します」
「おい」
藤堂と沖田が近藤に向けて頭を下げようとした時、横から土方が無愛想に呼びかけてきた。
「各組長に伝えとけ。何時出陣してもいいようにしておけってな」
「承知」
藤堂が半分頭を下げた状態のまま返事をした。
「やっと長州の尻尾を掴んだな!これから忙しくなる」
報告を無事終えて局長室から出た藤堂と沖田は、中庭にある井戸の縁に座り、汗ばんだ体を濡らした手ぬぐいで拭いていた。
興奮気味に隣にいる沖田に話しかける藤堂。
隊服の下に鉄鎖を繋ぎ合わせて作った防具を着ていた藤堂は、額にまで汗が滲んでいる。
「そうですね」
「?」
いつもなら、“思う存分斬れますね!”などと物騒なことを言うはずの沖田だったが、今日は違う。次に返す言葉を用意していた藤堂は、拍子抜けしてしまった。
「…どうしたの?体調でも悪いのか?」
そんな元気の無い返事をする沖田が心配になり、腕を拭いている彼の顔を覗き込む。
「何ですか?人の顔をジロジロ見て!残念ながら、私は衆道の気は微塵も無いので平助の気持ちには答えられないんです。すみません…」
「…なっ!!?」
ふうっと溜息をついて哀れみの目で藤堂の顔を見つめる沖田。
本気で言っているのかからかっているだけなのか、全く読み取れないほど見事な演技である。言われた方は堪まったものではない。
「だだだ!!誰が男色だーッ!俺は女の子が好きなの!!女の子以外は認めません!」
必死で男色を否定する藤堂。その必死さがまた怪しさを増している事には全く気づいていない。