「なんだ珍しい、興味あるのか?」
「早ようしいや!」
「まあ落ち着けよ。うちの側には怪我人なし。重要人物は捕縛したよ。荒縄で縛られた中年の男が一人この門を通って蔵の中に収容されるのを見た」
永倉は切羽詰る楓の声に体を遠ざけつつ重要な部分だけを掻い摘んで説明する。永倉の隣にいる原田にもその緊張感は伝わっていた。
「…そうか。それで?出動した隊は今何処や?」
良い結果を聞けた楓は、一度肩で息を吸い、吐くと共に顔の筋肉も緩める。これほどまでに強張っていたのかと自らも驚くほど体の隅々には力が入っていた。
「た、多分局長に報告しに行ってるはずだが…」
「そうか」
短く答えて、楓は再び人垣を割りながら屋敷の玄関に向かって歩き出した。
「おいおい!!何処行くんだよ?!」
永倉の肩に手を掛け、身を乗り出して楓を静止しようとする原田。
「着替えるんじゃボケッ!!いつまでもこんな格好でいられるか!」
楓は足を止めることなく原田に怒りをぶつける。
その言葉を聞いた原田は蹴られた太腿を擦りながら、永倉に対し困惑の表情を向けた。
「何で怒ってんの?」
「…自分で考えろよ筋肉達磨」
永倉も、朝稽古の身支度をするために門を後にした。

