幕末異聞―弐―



「……む」



温かい日差しが障子を抜けて差し込む部屋の中、薄い布団の中で寝返りをうつ小さな塊。
頭からすっぽり上掛け布団を被り、起きる気配は無い。


――スパン!!!


「楓―――ッ!!」


「…っ!!?」


いきなり響いた声にびくりと布団の中で体を強張らせる物体。

「大変…ぶっ!!」

「馬鹿助――!!騒がしいんじゃボケッ!!うちの睡眠時間削るとはいい度胸や!!表出ろ!ぼっこぼこにしたる!」

跳ねるようにして布団から這い出た寝起きの楓は、寝着が乱れている事などお構いなしに自分の使っていた箱枕を原田に投げつけた。

「イテーな畜生!いや、そんな事は後だ!!とりあえず起きろ!」

原田は鼻骨を直撃した枕を片手に、楓の腕を引っ張って無理やり立ち上がらせる。

「おい!!待てや!何興奮してんねん?!」

起きたそのままの姿で原田に手を引かれ、廊下を走らされている楓の額には幾筋か血管が浮き上がっていた。


「どけどけどけー!!」


朝だというのに、いつもより沢山の隊士たちが集まっている玄関を裸足のままで進む原田。当然、楓も素足で外に出る。屋敷の玄関から門へと続く石畳も多くの隊士がひしめき合っていた。

「デカ物!!一体何処に向かっとんねん?!ええ加減にしい!!」

踏ん張ろうにも素足のままでは力が入らない。
楓は原田の足を蹴ったり腕を叩いたりして抵抗するが、分厚い筋肉で覆われた彼の肉体には全く効いていないようだ。群がる隊士たちをなぎ倒さんばかりの勢いでどんどん門に近づいていく。


「うお!!左之ッ?!それはないだろ!??」


門にの目の前、人集りの先頭には永倉が陣取っていた。
どうやら原田は此処を目指していたようで、永倉の姿を確認すると、楓の腕をぱっと離し隣に並んだ。いきなり引く力から解放された楓は、一瞬バランスを崩し倒れかけたが、偶然それに気が付いた永倉に手を引かれ何とか持ちこたえた。