幕末異聞―弐―


「尾方さん、うまく化けてますね」


しゃがみ込んでいる乞食に目を丸くする沖田。
物影に座っていたのは乞食ではなく、乞食の変装をした新撰組監察方の尾方俊太郎だった。土方が目印になるようにとわざわざ配置していたのだ。

((一瞬ごみかと思った…))


藤堂と沖田は、看板目掛けて一直線に早歩きをしながら、尾方の見事な変装に気が付いた自分を密かに褒めた。


「ここです」


浅葱色の羽織が店の前に到着したことを確認した尾方は、ボロボロの布を身に纏ったまま小さな声で指示をする。

尾方の言葉に小さく頷いた藤堂は、目で自分の隊の部下たちを朝の打ち合わせで決めた通り配置させた。同じく沖田も、伍長に合図をし、枡屋を包囲する陣形に隊を分散させる。
裏口、格子窓のある場所、出口になり得そうなあらゆる場所を完全に包囲する。
そして、踏み込みの場所となる店の入り口には藤堂と沖田の二人が残った。
二枚組み、両開きの木戸の左右に分かれる沖田と藤堂。背を壁にぴたりと付け、目で合図をしながら同時に愛刀に手をかける。

「ご健闘を祈ります」

沖田側の戸に座っていた尾方が、汚れた顔で一礼をする。

「ありがとうございます。ちょっと行ってきますね」

いつもと変わらぬ沖田の笑顔を一目見ると、尾方は静かに狭い路地に入っていった。

(いいか?)

(もちろん!)

強い目線で最終確認を行う藤堂。それに答えるように沖田のにこっと笑う。






――そして…